田中宙:北朝鮮ミサイル危機で見えたもの
7月5日、北朝鮮がミサイルを発射した。発射が確認されたミサイル7発の
うち、長距離のテポドン2号は1発で、残りの6発は旧ソ連型の短距離ミサイ
ルだった。
北朝鮮側(非公式に北朝鮮のスポークスマンをつとめる在日のキム・ミョン
チョル朝米平和研究センター所長)が、7月7日に東京の外国特派員協会で行
った記者会見で発表したところによると、発射したミサイルは全部で10発だ
った。ロシア政府も、発射は10発だった可能性があるという見方をしている。
北朝鮮は、長距離ミサイルについては、1999年以来、アメリカや日本な
どに対し、もう発射しないと複数回にわたって約束しており、今回のテポドン
の発射は、これらの約束を破ったことになる。
(北朝鮮のキム・ミョンチョル氏は7月7日の記者会見で、発射しないという
約束は、アメリカや日本との外交交渉が続いている間だけを前提にしており、
現状では日米との交渉は断絶状態なので、約束を破ったことにはならないと主
張した。彼はまた、ミサイル発射はアメリカの独立記念日とブッシュ大統領の
誕生日を祝う、祝砲や打ち上げ花火のようなものだと繰り返し述べた)
長距離ミサイルは、日米との約束の範囲内だが、短距離ミサイルについては、
制約がかかっていない。北朝鮮は、毎年のように短距離ミサイルの発射実験を
しており、今年3月にも発射実験を行ったが、アメリカも日本も、あまり問題
にしてこなかった。今回もアメリカ政府は、短距離ミサイルの発射は、北朝鮮
による約束違反ではないと表明しており、問題にしているのは失敗したテポド
ンの発射に絞られている。
7月5日のニューヨークタイムスの社説は、テポドンを含む今回のミサイル
発射実験について「(他国に)直接の脅威を与えていないし、国際条約にも違
反していない。だから、アメリカやその他の国は、この発射実験によって、北
朝鮮を軍事攻撃する正当性ができたと考えることはできない」と書いている。
▼アメリカと中露の結託で窮した北朝鮮
発射されたミサイルは、ロシアのウラジオストクに近い排他的経済水域(2
00カイリ水域)の中に墜ちたが、北朝鮮がこの方向にミサイルを発射したこ
とにも意味がありそうだ。ミサイルが発射されたとき、ウラジオストク港には、
アメリカの太平洋艦隊の旗艦ブルーリッジが、親善訪問のために寄港し、停泊
中だったからである。
米軍の準機関紙「星条旗新聞」によると、ブルーリッジのウラジオストク入
港は4年ぶりで、以前から予定されていた。北朝鮮のミサイルが発射された
7月5日朝(アメリカの時間では7月4日)は、アメリカ独立記念日というこ
とで、1000人の乗組員たちはウラジオストクで観光したり、ロシア側との
親善活動をしていた。
ブルーリッジは、北朝鮮のミサイル発射の兆候が強まっていた6月28日に
は、中国の上海に、親善訪問のために寄港した。上海への寄港は2年ぶりで、
こちらも以前からの予定だった。その数日前には、グアム島の沖合で始まった
米軍の軍事演習(リムパック)に、初めて中国軍の将官が10人招待された。
ブルーリッジの中国やロシアへの寄港や、米軍の演習に中国軍人を招待する
動きは、アメリカが、中国やロシアとの敵対関係を緩和し、上海協力機構など
を通じてユーラシア大陸内の同盟関係を強める中国とロシアが、非米同盟とし
て国際社会で台頭することを容認する「多極化」の動きの一環である。
アメリカは最近、ロシアのプーチン政権に対して「人権侵害」などの点を突
いて非難する傾向を強めているが、これはむしろ、ロシアで7月中に開かれる
G8サミットを無効化してしまう効果の方が大きい。アメリカが、サミットの
主催国であるロシアと敵対している中で行われるG8サミットは、世界の中心
として機能しなくなる。その分、欧米の覇権力は弱まり、ロシアや中国といっ
た非米同盟の力が強まる。
北朝鮮のミサイル発射は、アメリカが中国やロシアに対して寛容な姿勢を強
める中で行われた。北朝鮮から見れば、中国とロシアは、アメリカに絡め取ら
れ、自国に対してアメリカと似たような圧力をかけてくる存在になりつつある。
北朝鮮は、単独でアメリカと交渉し、不可侵の確約をアメリカから勝ち取る
ことで、中国やロシア、韓国、日本といった周辺国と張り合っていける外交力
を得ることを目指していたが、アメリカと中露が先に結託してしまい、作戦が
破綻しつつある。北朝鮮は「アメリカと中国・ロシアとの結託を許さない」と
叫ぶかのように、ウラジオストク沖に向かってミサイルを連発した。
以前は敵だった中国とアメリカに結託されて窮し、断末魔の叫びのようなミ
サイル試射を試みているのは、北朝鮮だけではない。北朝鮮に触発されたのか、
台湾も、中国まで届くミサイルの発射実験を計画していると報じられている。
ブッシュ政権が、中国と敵対する台湾を見捨てつつあることは、以前の記事
に書いたとおりである。